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  • 山口祥兵

往診のさらなる発展と進化を目指して……とある女性獣医師が描く往診獣医療の行く末(訪問獣医あっとほーむ 獣医師 吉田恵子先生)

更新日:2022年1月26日

夢を叶え、一般動物病院で獣医師として勤務する吉田恵子(よしだけいこ)先生。家庭を持ちながら臨床獣医師として働く彼女が必要としているものは、往診における「代診ネットワーク」とも呼ぶべきものだった。夢のその先へと歩み続ける彼女の旅路を紐解いていく。(2020年11月19日取材)


薄れることのない獣医師への憧れ


彼女が獣医師の存在を知ったのは、中学生の頃、病気を患った飼い犬を動物病院に連れて行ったときだ。命が助かるかわからない状態だったが、獣医師の懸命な手術により愛犬は一命を取り留めた。


こんなお仕事があるんだということを身近に感じたことが、獣医師を目指した最初のきっかけだったのかもしれません。

自分の愛する家族を救ってくれた獣医師の姿は、幼い吉田先生の目に強烈に焼き付けられた。


吉田恵子先生


目の前で活躍する獣医師の姿だけでなく、フィクションの世界で活躍する彼らの姿にも魅せられた。漫画家・佐々木倫子の手になる少女漫画『動物のお医者さん』(白泉社)も吉田先生が獣医師を志したきっかけの一つだ。


獣医師の卵たちが織りなす物語を見て、まだ少女だった吉田先生は獣医学部での学生生活に憧れを持つようになっていった。


サスペンスドラマ『女動物医事件簿』も彼女に大きな影響を与えた。山口智子演じる獣医師の活躍に心を躍らせ、彼女はますます獣医師という職業に惹きつけられていく。


愛犬の命を救われたことで獣医師を知り、漫画やドラマを通して憧れを募らせていった吉田先生は、中学を卒業する頃には自然と獣医師を目指すようになっていたという。


高校時代にはアーチェリー部での活動に打ち込みインターハイ出場を成し遂げ、遊びにも熱中するなど高校生らしい青春を過ごしていたが、どのような経験をしても「獣医師になりたい」という夢が変わることはなかった。


そのまま獣医系大学を受験することにした吉田先生だったが、彼女を待ち受けていたのは想像以上に厳しい現実だった。高い学力の壁に阻まれ、現役での合格を逃してしまったのだ。


親からは「二浪はないよ」って言われてましたね(笑)

そこから勉強漬けの日々を乗り越え、一浪の末に志望大学への合格を果たした。

「ギリギリで何とか入学できました」とは吉田先生の弁であるが、それでも合格は合格だ。


やっとのことで憧れの獣医学部に入学した彼女が勉学への熱を絶やすことはなかった。それもそのはず、ようやく好きな勉強に全力で打ち込める環境が整ったのだから。

研究室配属の際には病理学研究室を選択し、そこでも多忙な日々を送ることとなった。卒後は大学院に進学し、さらに3年もの月日を研究に費やした。大学院時代にはアルバイトという形で動物病院で働く経験も積んだ。


そして大学院を出た後、ようやく憧れの臨床獣医師としてのキャリアがスタートする──と思いきや、彼女が最初に入社したのはバイオ系のベンチャー企業だった。


会社の中で働くという経験も人生の中で一度やっておきたいという思いもありまして、就職しました。

幼い頃から憧れ続けてきたのはあくまでも臨床獣医師だった。

大学に入った当初も、卒後は臨床に進もうと考えていた。

しかし、獣医師の知識を活かせる仕事が予想以上に多いことを入学後に知り、自身のキャリアを再考することになる。


そこで下した決断が、臨床との別離であった。


ただ、獣医師として命を救うことへの憧れは、企業に勤務している間にも消えなかった。


臨床に行きたいという気持ちはずっとありましたね。どこかチャンスがあれば、と。自分でも忘れないように学会に顔を出したり、雑誌を購読したりしていたんですけど、やはり直接やりたいとは思っていました。

こうした思いを内に秘めながらも企業に勤め続けること5年。彼女はついに臨床獣医師になることを決意した。


産休中に会社が倒産してしまったということもあり、次の仕事を探すタイミングと重なったこともきっかけになりました。

こうして半ば背中を押される形で子どもの頃から抱き続けてきた夢を叶え、臨床獣医師となった。

そんな彼女が動物病院で勤務し始めて1年目のとき、忘れられない経験をしたのだという。


甲状腺機能亢進症を患った猫ちゃんがいて、その猫ちゃんを私が担当することになったんです。他にも腎臓病や乳腺腫瘍を患っていて……。

かつて愛犬を救ってくれたあの獣医師のように、吉田先生は懸命に治療に取り組んだ。

飼い主が熱心に治療に協力してくれたこともあり、当初は17歳だったその猫は23歳まで生き続けた。


その子は老衰で最期を迎えました。初診から看取るところまで5年間も診させていただいて、新人の頃からすごく長く勉強させていただきました。良い時も悪い時も飼い主さんと一緒にその子のことを考えて、一緒に相談しながら関わらせていただける。そういう子は何頭もいますけど、絶対に忘れないですね。

こうした体験を通じて、「飼い主と二人三脚でペットのことを考えたい」という想いが彼女の中でどんどんと膨らんでいった。


同じ病気でも状況は千差万別ですし、飼い主さんのご事情もそれぞれに異なります。飼い主さんがどういう風にしたいのか、どこまでできるのかということを、お話をよく伺いながら一緒に考えていくようにしています。



臨床獣医師として勤め始めて間もない頃に忘れられない経験をした吉田先生。その経験から得た想いは、確実に彼女の血肉となっていた。


現在も同じ病院で勤務する彼女だが、かつてと異なるのは「勤務医」と「往診」の二足のわらじを履いていることだ。彼女はなぜ往診を始めるに至ったのか、ここからはその理由と今後の目標を見ていきたい。



夢のその先……新たな目標へ


勤務医として勤める中で、一般動物病院では対応しきれないニーズの存在に気づいた。


それが「往診」に対するニーズだ。


一般動物病院の中には往診をしている病院もあるが、往診に割ける時間は非常に限られており、彼女が勤めている病院も含め、飼い主の要望に応じられないことが多々あるのが実情だ。

一般動物病院での勤務を通して往診の必要性を認識した彼女は、勤務医8年目のタイミングで、往診専門の動物病院の開業を決意した。


元々、家庭の事情から、開業して動物病院を構えて……という予定はなかったのですが、往診専門であれば自分でも開業できるのではないかと考えまして。困っている方がいらっしゃるならば助けたいと思ったんです。

往診を始めたことにより、外出を嫌がるなどの理由からこれまで動物病院に連れて来られなかった動物たちに対しても、診療を提供できるようになった。




働き方の面でも変化があった。

往診では、一般の動物病院での勤務とは違い、飼い主からの予約が入ったときに始めて仕事が発生する。そのため、家にいる時間を確保しながら仕事を行うことができ、子育てなどに時間を割きやすくなったという。

往診を始めた当時、幼稚園児と小学3年生の子どもを育てていた吉田先生にとって、子育ての時間が確保できることは魅力的だった。


一方で往診には難しさもある。一般の動物病院と比べると設備が限られるため、できないことも多くあるのだ。その限界を把握している彼女は、必要に応じて飼い主に動物病院を紹介して連れていく手伝いもしている。


往診を始めるに際しても様々な苦労を経験したという。

まず直面したのは、開業するにあたっての各種事務手続きや事業の準備だ。

往診専門の獣医師が周りにいなかったため、自ら起業方法を勉強するとともに、女性獣医師のコミュニティにも参加し、情報を集めた。


しかし、大変だったのはこのような準備だけではない。集客にも苦労を強いられた、と吉田先生はしみじみと語った。

自宅を拠点とした往診専門では、目立つ病院を構えないので地域の方々に知ってもらうチャンスが少ない。

開業して1年目の頃はほとんど依頼が無く、チラシを一軒一軒に配って回っていたという。ホームページも独学で自ら作成した。

一方で、工夫すれば大規模に宣伝することもできるものの、彼女のキャパシティに限界があることも状況を難しくした。


自身の対応能力を超えて集客してしまうと家庭との両立が難しくなるため、大がかりな宣伝はできないのだ。吉田先生は「時間的にも精神的にもゆとりのあるペースで、件数は少なくてもきめ細かいサービスをご提供したい」と語る。現在は少しずつ依頼が増え、適度に忙しい毎日を送っている。


そうは言っても、決して現状に満足しているわけではない。いずれは自身の往診業務を拡大させたいと意欲を滲ませた。


子どもが成長して一日中面倒を見る必要がなくなり、夜に自由な時間ができるのであれば昼間は動物病院で勤務をして夜間は往診をする。そういう形でも取り組めると思っています

往診の価値を知る彼女は、より積極的に往診を行う必要性を感じているのだ。獣医師と動物看護師を集めてチームを作り、連携して往診に取り組むことも今後の目標の一つだ。


私が往診に行けないとき、代わりに他の往診の先生にお願いできるようなネットワークが構築できたらなと思っています。動物看護師さんにも、以前は動物病院で働いていたけど現在は子育て中という方はいらっしゃるので、そういう方々にとってもできることの幅が広がりますし、往診の形も発展・進化できると考えています。

紆余曲折を経ながらも子供の頃からの夢を叶え、獣医師となった吉田先生。彼女の旅路はまだ終わっていない。あるいは、まだ始まったばかりとさえ言えるかもしれない。


「往診の発展・進化」という新たな夢に向かって邁進する彼女の姿は、多くの人を魅了するだろう。


さながら、かつて彼女が憧れた獣医師たちのように。


いずれは彼女の姿に憧れて「往診をする獣医さんになりたい」と思う子供たちが現れるかもしれない。

そんな未来すら、想像せずにはいられない。




もっと知りたい! 吉田先生ってどんな人?


Q. 飼い主の方へのメッセージをお願いします。


わんちゃんや猫ちゃん、ペットたちは大事な家族の一員ですよね。ちょっと気になるようなことがあっても、病院に行くのが大変なときもあると思います。 色々なご事情がある中で、気になっていることや悩まれていることががもしあれば、往診を気軽に使ってくださればと思います。 「こんなことで呼んでいいのかな」と思われることもあるかもしれませんが、元気な子でも健康チェックや予防医療はすごく大事なことです。悪い状態になってから診療するだけではなく、気軽に呼んでいただけるような動物病院を目指しています。

Q. 獣医師を目指す方や臨床に進むことをためらっている女性獣医師へのメッセージをお願いします。


獣医師には元々いろんな仕事の場があります。近年は特に女性の働き方改革も進んでいると思います。時間的な制約が厳しい動物病院もたくさんあると思いますが、一方で女性の働きやすさに重点を置かれているところも増えて来ているんです。自分で仕事を作って新しいことを始めやすい世の中になってきていると思いますので、興味を持ったことはできるだけやってみるのが良いのかなと思います。 色々回り道はしてきましたが、どれも貴重な経験でした。企業で働いてきたときに経験したことも、子育ての中で経験したことも、全て今の仕事に活かせていると思います。 結婚や子育ても諦めずに、臨床も家庭を理由に諦めずに、色々な選択肢や可能性を模索してみて、自分の納得のいく形で人生を切り拓いていけたらって、私はそう思って頑張っています。


動物病院紹介

名称:訪問獣医あっとほーむ

獣医師:吉田恵子

往診エリア:千葉県船橋市、八千代市等





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