• 山口祥兵

ペット業界に蔓延る課題!往診獣医は人々の笑顔を糧に今日も往く(アニマルライフパートナー 往診獣医師 丸田香緒里先生)



「飼い主さんが笑顔になることや幸せな気持ちになることは、私にとってすごい喜びなんですよ。」

そう語ってくれたのは、往診動物病院アニマルライフパートナーの院長を務める丸田香緒里(まるたかおり)先生。院内での診療だけでなく、往診での診療や飼い主向けのセミナー、カウンセリングなど幅広いサービスを提供している。さらに、「一般社団法人女性獣医師ネットワーク」の理事としての活動や、フードの共同開発・各種コンテンツの監修など企業との協働も精力的に行っている。丸田先生を突き動かしているものを知るために、このたびインタビューをさせていただいた。(2020年11月20日 取材)


ペットの幸せ・飼い主の喜び



横浜市内の動物病院。

そこが新米獣医師だった彼女の最初の職場だ。

そして、今日の丸田先生が非常勤獣医師として診察を行っている前線でもある。


今でこそ一人で臨床現場を切り盛りする彼女も、初めは一勤務医だった。

大学で学ぶことが全てではなく、卒後の実地で真の学びが始まるような世界なのだ。

修練の日々は続いた。


そんな彼女に最初の転機が訪れたのは、獣医師として実力を付けてきた数年後のことだった。


飼い主さんと話しているときに、マッサージやご飯など、獣医療ではない部分について聞かれることが多かったんです。飼い主さんは「何か自分にできることはないか」と、誠実な目で私に質問していました。

その誠実さに応えなければならないという想いから、勉強のために時間をとる決断をした。

大学卒業後、動物病院で勤め始めて六年目のことだった。



獣医療ではそういったことについては全く学べなかったので、時間をとって勉強をしたかったんです。それまでは本当に目の前の仕事をするだけの人生を歩んできていて、「これはちょっと違うな」という思いもありました。

こうして半年間の修学期間に入った。当初は退職して勉強に専念するつもりだったという。しかし、彼女を慕っていた飼い主の方々の存在や、院長をはじめ同僚に「戻ってきてほしい」と声をかけられたことから、休職という手段をとった。その後は会社を立ち上げて、自らの手で往診動物病院の開院まで成し遂げるのであるが、それについては後段で詳しく見ていきたい。


さて、そんな丸田先生が初めて獣医師になりたいと考えたのはいつのことだろうか。


高校二年生のときに獣医師を志すようになりました。大学時代の友人には、幼稚園の頃から獣医師を目指していたような、強い想いを持った人がとても多かったのですが。

医療系に興味があったところに動物好きが重なって、自ずから臨床の獣医師になることを考えるようになったのだという。


私は動物も好きなのですが、動物よりも人が好きなんです。今働いていてもすごく感じることですが、飼い主さんが笑顔になることや、幸せな気持ちになることは、私にとってすごい喜びなんですよね。



飼い主を笑顔にする喜び――。 それを味わい尽くすのに臨床獣医師という職はうってつけだった。

そうして一途に臨床の道を歩んできた丸田先生が「飼い主の方を笑顔にしたい」という気持ちをよりいっそう強めるきっかけとなった一通の手紙がある。臨床を始めて三年目のとき、獣医師として初めて受け取ったお礼の手紙だ。


患者さんの中に痙攣発作が止まらない猫ちゃんがいたんですよ。その子が来たとき、私は無意識にその子の頭を撫でていたらしいんです。そうしたら後日、飼い主の方から、「頭を撫でてくれたことがすごく嬉しかった」とお礼のお手紙を頂いたんです。

発作に喘ぐ愛猫になす術なく獣医を頼ってくる人々の目には、「頭を撫でる」という何気ない行為一つがいつにも増して慈愛に満ちたものとして映ることだろう。


丸田先生はこうした一つ一つのやり取りから、治療のみではなく、飼い主との関わり方も大切であることを学んでいった。

もちろん、笑顔や喜びばかりで満ちあふれる職場でないことは言うに及ばない。時にはペットとの別れの場面に遭遇することもある。だがそんなときにも、飼い主と丁寧に関わることで、愛する家族を失った苦痛を和らげることができるのだ。


獣医療に携わっているとやっぱり「亡くなる」という結果は避けられないんですけど、治療自体ではなく、そこまでの関わり方などで飼い主さんの感じ方も変わってくるんだな、と思うことがありました。そういうところに臨床の魅力をすごく感じるようになりました。

往々にして、就業三年目という時期はキャリアについての悩みが増える時期でもある。そんな時期に訪れたこの体験は、結果として彼女の獣医師人生の中でも最も重要なものの一つとなったのだった。


手探りからのスタート! 請われるままに往診へ

半年間のうちに学んだことを生かしたいと思い、Animal Life Partnerを設立した。

2012年のことだった。


動物病院では基本的に否定されるようなことを、とがめられることなく提案できる立ち位置の獣医師になりたいと思っていました。


その言葉が示すとおり、設立当初は飼い主向けセミナーやカウンセリングを行っていたほか、アロマやフードについての指導をメインとしていた。



たしかに、一般獣医療を基軸とする動物病院では目にすることの少ない項目だ。しかしそういった分野だからこそ、飼い主の方々でも自発的に取り組みやすいのかもしれない。

丸田先生はこれらを積極的に取り入れることで、人々の望みに応えていった。


事業内容に往診が加わったのは2015年。

カウンセリングやセミナーをする中で、多くの飼い主から「先生に診察してもらえたらいいのに」と声が上がるようになったことがきっかけだ。

「往診であれば少しずつ始めることができる」と考え、独力で往診に取り組んでいく決断をした。


だが、物事はそう簡単には進まなかった。要望に応えるために始めた往診は、手探りからのスタートだったのだ。


往診がどういったものかも知りませんでしたし、見本もなかったので、飼い主さんのお宅に伺うときに何をどこまで用意するべきなのかすら、最初はわかりませんでした。

また取り組んでいく中で、次第に一般動物病院での治療と往診での治療は全く別物であることにも気づかされることになった。


往診では、「できること」と「できないこと」に差がある――。


現在も週三回は横浜の動物病院で診察をしているのですが、動物病院での診察と往診での診察は全く違う。往診だと(設備の都合で)色々できないことがあります。

一般動物病院での診察ではできることが、往診での診察ではできない場合がある。良くある例だが、血液検査一つとっても設備がないとすぐさま結果を得られないこともある。


しかし、往診は動物病院での診療の下位互換に過ぎないのかと言えば、そうではない。


犬や猫の高齢化はかなり進んでいます。治療だけではなく、お家でできるリハビリや介護を飼い主さんの家庭環境やお家のレイアウトに合わせて提案することができます。飼い主さんに合わせてカスタマイズした対応ができるのは往診ならではだと思います。

設備が整っている動物病院でしかできないことがある一方、往診で実際に飼い主の家に行かなければできないことや、知り得ないこともある。言うなれば両者で得意分野が異なっているということだ。

中でも丸田先生は往診獣医師として、自宅という環境を見極めることができるという特権を活かしたケアに力を注いでいるのである。


他にも鍼灸治療、漢方治療、薬膳など東洋医学に力を入れています。藤沢市には鍼灸治療をやっている動物病院があまり多くないんです。調べて連絡してきてくださる方もいます。

往診を始めてから東洋医学を学び始めたという丸田先生。その知識は看取りや慢性疾患の対応に活かされている。


東洋医学を活用すれば過度に薬を飲まずに体質改善ができることもあります。調子が悪かったペットが歩くようになったり、ご飯を食べるようになったり。そういう良い変化があると、飼い主さんの気持ちも明るくなりますね。


カウンセリングやセミナーで人々を啓発していく。そうして間接的にペットと飼い主の幸せに寄与してきた彼女は、いつしか彼らのさらなる望みに応えるために往診に足を踏み出した。それはまるで暗闇を一人歩いて行くような道程であったが、その途中で東洋医学という新たな地平を見出すこともできた。ここに見るのは、学びに対してひたすらに貪欲な獣医師の姿だ。立ち止まることをせず、常に開拓を続けようとする意思の根本には、動物と飼い主の笑顔を求める精神があると言っても差し障りはないだろう。





ペットを取り巻く課題……世の中を変えるために



丸田先生が診療以外に力を入れていることに、「一般社団法人女性獣医師ネットワーク」での活動や企業との協働がある。


「女性獣医師ネットワーク」については聞き慣れない読者諸氏もおられることだろう。一体どのような団体なのだろうか。


臨床の現場で働きながら家庭を持つことはかなり難しいので、結婚や出産で仕事を離れてしまった先生が臨床に戻るにはかなりの勇気が必要なんです。

獣医師の約半分を占める女性獣医師だが、仕事と家庭の両立に苦しみ、仕事から離れてしまう人、あるいは家庭を諦めてしまう人がいる。この現状に課題を感じた獣医師の箱崎加奈子先生(ペットスペース&アニマルクリニックまりも院長/株式会社WVN 代表取締役)が、女性獣医師の交流や情報交換の場として立ち上げたのが「女性獣医師ネットワーク」だ。


箱崎先生が女性獣医師ネットワークを立ち上げてまだ一、二年のときにメルマガを流されていたんですよね。「何か手伝いをしてくれる人はいませんか」、と。それが2012年で、ちょうど私が仕事を辞めて会社を立ち上げるタイミングだったんですよ。すごく興味があったので、「何かお手伝いできることありませんか」と手を上げさせていただきました。

自分自身も今後に不安を感じていたこともあり、箱崎先生への助太刀を申し出た丸田先生。現在、女性獣医師ネットワークの理事を務めている。


産休や育休を経て臨床現場に戻ろうとしたときに障壁となるのは動物病院における働き方だ。一般的に激務とされ、突発的な緊急対応を求められることもある臨床の現場では、仕事に生活を合わせるシーンも多く見られる。


一度仕事から離れてしまったときの技術的な不安も獣医師の心を蝕むことだろう。

基本的な手技が錆び付いてしまうだけではない。日々進歩していく獣医療に追随していくことが常に求められる業種であるにも関わらず、その最前線から退かなければならないのだ。たとえば「半年離れただけで知らない薬がたくさん出てきたり」と、丸田先生は実体験に照らして語る。


今でこそパート獣医師は増えてきましたが、少し前は本当にいらっしゃらなかったんですよ。「パートは早めに帰っちゃうから」と、そういう考えもすごく多くて。

「女性獣医師ネットワーク」は、そのような環境で「がんばっていたい」先生たちと、同じような境遇の獣医師が情報交換できる場なのだ。


一人の女性獣医師として、自身の悩みだけでなく業界の課題とも向き合おうとするその気概は、「飼い主の笑顔が自身の喜び」だと話す姿に通底する。


そうした思いは企業との協働の際にも垣間見える。


「企業様との連携に注力している」と話すように、他企業との積極的なコラボレーションは丸田先生の取り組みの中でも中核をなす事業の一つだ。

これまでにもペットフードやサプリメントの共同開発に携わってきただけでなく、大型ドッグパークの施設獣医師を担当したこともある。最近では企業顧問やアドバイザーとしても活躍しており、メディアへのコラム掲載や記事監修実績に至っては枚挙に暇がない。

(参考:丸田先生プロフィール https://animallifepartner.com/profile.html


本業である臨床獣医師とは別にこれだけの活動に時間を割いている背景にはある一つの思いがあるのだという。



私がいろんな企業様と仕事をさせていただいてるのは、モットーの一つに「ペットたち、特にわんちゃんと暮らすことをより良くする、楽しくする」ということがあるからです。


ペットが直面する危険は何も病気ばかりではない。日常空間にこそ、意図しないリスクが潜んでいることがある。

たとえば身近なところでも、おやつをのどに詰まらせてしまってペットが命を落とすケースがある。

丸田先生はそのような悲劇を未然に防ぎ、ペットが安心安全に日々の暮らしを楽しめることを目指している。


診療は病気になってからお願いされることが多いんですけど……病気ではないときに遊んでいる施設とかおもちゃとか、暮らしの中にあるものがより良いものでなければならないと思っているんです。

物品の監修に関わる際にはそうした視点を忘れることなく取り組んでいるという。

その意識はプライベートにまで及び、ペットが触れる場所や物が安全安心かどうか、常に気を配っているのだ。


彼女の進む先にあるものはこれだけに留まらない。

もう一つの目標は、高齢者でも安心してペットを飼える世の中の実現だ。


すごく感じているのは、飼い主さんが高齢になったときに「これ以上ペット飼えない」っておっしゃることが結構あるということ。「今飼っている子が亡くなってしまったら、もうペットは飼えない」という方が六十代、七十代くらいの方ですごく多いんですよね。まだまだ人生に先があるのに動物たちと暮らせなくなるのって、すごくさみしいなって思っています。

現実に、保護動物の譲渡においても「高齢であること」はリスク要因と見なされうる。家族などのバックアップ体制が求められることがあり、そうした背景を持たない高齢者が譲渡を諦めてしまうケースは身近に起こっているのだ。

このような状況下で、「ペットを飼いたいのに飼えない」と無念を抱いた高齢者が全国に多数存在していることは想像に難くない。


「自分が病気になったときに、その子のことを見てくれる人がいないから」という理由が多くて……わんちゃんたちのことを考えているからこその理由だと思いますが、どうにか解決したいと思っています。

充分なサポートを提供できれば、高齢の方々でもペットを気兼ねなく飼えるようになっていくのだろうか。それは獣医療ではなくペットシッターに近い役割かもしれないが、そうした構想を抱いているのだと彼女は語る。

そして、往診はその夢を叶えるのに最適な手段でもあるのだ。


「飼い主さんのサポートができるから、大丈夫だから、飼って良いよ」と言える世の中を作っていきたいな、と。

世の中を変えたい――。


そのように書くと壮言と捉えられかねないが、その根底にあるのは徹頭徹尾、「人々の笑顔」を希求する一人の獣医師の思いだ。

ここで語られたことは彼女が抱く夢のほんの一部に過ぎないのかもしれない。

未来ではさらなる夢が芽吹き、花開いていくのかもしれない――。




一寸先のことすら誰にもわからない世界だ。

それでも、たとえどんな結果が待ち受けていようとも、理想の実現に向かって邁進する獣医師がここにいるという事実は、いつまでも消えることなく残り続ける。


飼い主の笑顔を願い、ペットの安心安全を願い、高齢者とペットの共生を願う――どこまでも優しく温かなその心は、これからも多くの飼い主と動物を癒していくことだろう。





もっと知りたい! 丸田先生ってどんな人?



Q.何もわからない状況から独力で往診に取り組んでいったとお話しいただきました。やはり一人で開業して何もかもを学びながらというのは難しそうな印象を抱きますが、情報収集や知識習得はどのように行っているのでしょうか?


動物病院で勤務医もしているので、医療的な知識などはそこで習得します。手術もありますし、他の先生からいろんな専門分野の情報を教えてもらえたりもします。 往診の病院だと、最新の薬の情報やセミナー情報が入って来にくいです。一日に診察する件数が少ないと薬剤の購入量も少ない。そうするとディーラーの方が訪れる頻度も少なくなるので、製薬会社からの情報などがあまり入って来ないという印象があります。そういう意味でも一般動物病院で診察をするのはすごく良いですね。


Q.経営知識を得るのも大変だったのではないでしょうか?


経営知識についてはビジネスパートナーがいるのでそちらに任せています。獣医師は経営の知識がほぼないので、そういう点では任せることができるのはすごく安心感もあります。最初の頃はかなりぶつかっていましたけど(笑) 飼い主さんを笑顔にするとか、動物に優しくするとか、そういう心情的なことは時に「経営」とは相反するものがあるので……。診療時間外に飼い主さんの相談に乗ったり、時間以上に何かできないかアドバイスしたり……。そういった部分が会社経営という側面とぶつかってしまうことはありました。


Q.飼い主の方に向けて伝えたいことはありますか?


動物病院と一口に言っても、いろんな先生がいて、いろんな考え方があって、いろんな形があります。一人のかかりつけの先生が見つかればもちろん良いのですが、もし、何かそこで困っていることや、解決できないような気持ちがあるのであれば、他の先生に相談したり、往診の動物病院に相談したり、そういった選択肢をいくつか持って、使い分けをするっていうのは一つの方法です。ご家族の中でも、一番世話をしている方が非折で悩んで抱えてしまうことも多いように感じます。一人で抱え込まず、一緒に考えてくれる先生を見つけてもらえたら良いなと思います。


Q.これから往診を始めてみたい獣医師の方に向けて、メッセージをいただけますか?


往診では一般動物病院と違ってできないこともたくさんありますが、やれることもたくさんあります。一般動物病院と連携をしつつ、お互いの苦手なところを補い合い、得意なところを活かし合っていけたら良いと思っています。 また、往診は飼い主さんとの距離が近く、より親身になれるとても魅力的な仕事です。病気の治療だけでなく、飼い主さんの気持ちの支えになることに魅力を感じている先生にはとても良い働き方ではないかと思います。

動物病院紹介

名称:アニマルライフパートナー

獣医師:丸田香緒里

所在地:神奈川県藤沢市湘南台2-22-16-402

HP:https://animallifepartner.com/housecall.html



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